キーホルダー

「あ･･･」
カギをかけようとキーを探そうとした時、いつもと違う感触にキーホルダーを見た。皮にとめてあったプレートが外れかけている。
観光地にありがちな、地名の入ったプレート。キャラクターものも好きではないし、どこで作ってるのだかわからないようなこんなキーホルダーにも普段興味はない。だがこのキーホルダーだけはなぜか特別だった。

あれはバイクに乗り始めて２年目頃だったろうか。その頃に知り合った友人が持っていたキーホルダー。
その最果ての地の名の入ったキーホルダーはなぜか私の目に焼きついた。
一人でツーリング、しかも何日間も知らない土地を走ることなんて、自分がするとは思ってもいなかった。
ライダーの聖地とまで言われる場所でも自分には無関係だと思ってた。
何がきっかけだったか覚えていない。ある日ふと行ってみようと思った。その場所に行ってそのキーホルダーを手に入れたい。

翌年、夏。私はそこに向かって走っていた。目的地まで１５００ｋｍ。
たくさんの人と出会い、たくさんの景色を見て、目的地に立った。
その場所は殺風景で、観光地特有のどこにでもある土産物屋があり、どこにでもあるような土産物がたくさん並んでいた。
それでも、やはりそのキーホルダーは特別だった。
友人の持っていたものとは少し違うタイプの、地名の入ったキーホルダーを選んだ。

もう６年も前のこと。毎日バイクに乗り、がさつな私の扱いに、そろそろガタがきてもいい時期だ。
キーホルダーをながめて苦笑する。
あの旅。今より少し若かったし、何にでも興味があったし、どんなことでも吸収できた。
そうして吸収したことの中から自分にあうものを取り出して、そろそろ自分の行きたい方角が見えてきたのかもしれない。
あの後もその土地は何度か走っているが、やはりあの時と同じような旅はできない。
寂しいような気もするけれど、悔いはないし、今の自分のバイクとのかかわり方には満足している。
ちょっとした充足感。

手の中の、汚れて壊れかけたキーホルダーは気のせいか少し暖かい。
「キーホルダー、壊れちゃったからまた買いにいかなきゃ」
私の言葉に聞いていた友人が何も言わずに少しだけ笑った。
多分バイクに乗る人間にはわかる思い。
「今度はどこ行くんだ？」
「どこがいいかな」

キーホルダー１つ買いに何百キロ、何千キロ走るツーリング。
それもまたおもしろいかもしれない。
さぁ、どこへ行こう。