初めてのバイク

納車。

まだ自分が免許をとったことすら信じられないのに、“私の”バイクが来る。
どきどきしながら何度も窓から外をのぞく。初めて公道を走るのが怖くてバイク屋さんに家まで運んでもらうことにしていた。
約束の時間の１時間も前から何度も窓まで往復してる私を見て母も呆れ顔だった。

「来た！！」
一目散に外に飛び出す。バイク屋さんは呼び鈴も押さないうちに出てきた私に少し驚いている。

うわーうわー！すごい！かっこいい！！

説明をちゃんと聞かなきゃいけないと思いながらすっかり上の空でバイクのまわりをぐるぐるまわる。

なんだかバイク屋さんで見た時よりずっと大きく見える自分のバイク。
うれしいのと不安。緊張で手が震えそうだった。

バイク屋さんが帰ってからも、まだしばらくバイクのまわりを回ったりあっちこっち触ってみたりする。

エンジン、かけてみようかな。
３０分もした頃ようやくキーをさす。

ドルン…ドッドッドッド…

いい音！
もうとにかく何でも最高。音も見た目もすべて。

すぐに出かけたいのに不安で、ヘルメットとグローブをとりに行くのを少し躊躇する。
どこへ行こう。
近くの広い駐車場のある公園にしよう。あそこなら人も少ない。

冗談ではなく本当に手が震えている。
教習所のバイクより大きくて重たくて、そして自分のだと思うせいか、恐怖感ばかり募っていく。
でも走りたい。
震えをとめるかのように、強くグリップを握る。大丈夫、大丈夫。

何度か自分に言い聞かせてから発進。思ったよりスムーズに動き出すバイク。
慎重に、慎重に、スクーターより遅いんじゃないかっていうスピードで走る。
ああ、大きな初心者マークをべたべた貼りたい気分だ。
まわりの車に初心者だから近寄らないでってスピーカーで言いたい。

風を感じるなんて、とんでもない。
ほんの数キロの公園についた頃には１０月だというのに汗びっしょりだった。

駐車場についてもまだ緊張している。とてもくつろいでいる気分になれなくて、休憩もそこそこにまたエンジンをかける。

駐車場出口。いくら緊張してるとは言え、ここは公道。そろそろ進みながら左右確認して出ようと思った瞬間、距離は少しあるけど、カーブを車がまがってくるのが見えた。驚いてブレーキをぐっと握る。その瞬間バランスを崩し支えきれずにバイクが倒れていった。

納車したばっかりのぴかぴかのバイクなのに！
気持ちがどれだけ焦ってもバイクの重さは到底支え切れず、バイクは地面に横たわってしまった。
泣き出したいような気持ちでバイクをおこす。見てみるけど大きな故障はない。

早く帰りたい。

そこからの数キロが何十キロにも感じられ、ようやく家につきバイクを停めたとき、その場所に座り込んでしまった。

体中が極度に緊張していたことが今ごろわかる。肩も腕もいたるところが痛い。

自分の部屋で服も替えずにベッドに倒れこむ。
この先乗っていけるのかな。
納車のうれしさより不安感が大きくなってくる。

いつの間にか少し眠っていたようで、その間怖い夢ばかりみた。
転ぶ夢、事故の夢…。

外は少し薄暗くなってきている。

もう一度バイクを見に行く。

胸がしめつけられるように高鳴る。

やっぱりかっこいい。

やっぱり乗りたい。

今日倒してつけてしまった傷をそっと撫でてみる。
ごめんね。もう転ばないようにするからね。

今度の休みはもう少しだけ遠くへ行ってみよう。