雨と煙草

煙草なんて百害あって一利なしだ。
本人の健康に悪いのはもちろん、まわりの人まで不快にしてしまう。喫煙者がすみにおいやられるのは仕方のないこと。
そうは思っていてもなかなかやめられない。バイクに乗るときはなおさら。
何もせずぼんやりできる時間が好き。流れる煙もいい。

雨のツーリング。休憩するのさえ億劫になる。濡れたカッパでは店に入るにも気がひけるし、カッパを脱いだり着たりなんてのもさらに面倒。

珍しく連れのあるツーリングで雨に降られた。予報を裏切って雨は絶え間なく降り続いていた。
いくら休憩が億劫とはいえ体力の消耗、連れのあることを考えればマメに休まなければならない。

ちょうどガソリンが少なくなり立ち寄ったガソリンスタンドで連れは店員に断って洗面所を借りた。店員さんはずぶ濡れのライダーを気の毒に思ったのか休憩していってくださいと言ってくれる。

ガソリンスタンドの事務所の外に短いひさしがあり、その下にプラスチックのベンチがある。中に入るのは申し訳ない気がしたのでそのプラスチックのベンチにカッパのまま腰かけた。ベンチも既にぬれているのでそれほど気にならない。防水でもなんでもないメッシュグローブはもちろんびしょびしょで、脱いだ後もしばらく手がぬれている。手をふくためにかばんからハンカチを出そうとすれば、かばんの中の他のものまでぬらしてしまいそうでそのまま放っておいた。

それでも煙草を取り出してみる。
風向きが変われば雨のあたるベンチ。濡れた手で取り出した煙草。当然快適な喫煙環境ではないし、のんびり休憩気分でもない。

半分くらい吸ったところで連れが戻った。少し離れてベンチに腰掛けてぼんやりしてる彼に、手にもったままだった煙草をすすめた。彼が自分のを持っているのも知っていたし、それが私のと違う銘柄なのも知っていたけど、やはり取り出すのも面倒だろうと思ったから。そしてなんとなく、こんな環境でこそ一本必要に思えたから。
彼が口にくわえたタイミングで火をつけてやる。
これもあまりしないこと。火は自分がつけられるのもいやだし、人につけるのも好きじゃない。

でも、そういう時ってある。

わざわざ休憩して、わざわざ煙草を吸う。

そんな時間。

景色がいいわけでもなく、たまに顔に雨が降りかかる。そんな中で。

その時はしんどいと思っていても振り返ってみれば、なぜか一番鮮明に思い出すひととき。
ツーリングにはそんな風景がいくつもある。