広くて高い空

「風になりたい」
よくバイクに乗る人が言うと思われてる言葉（笑）
実際本当に風を感じたいって言う人もいる。
でも実は私はそう思ったことがあまりない。

確かに車と違ってむき出しの体で走っていれば風を感じる。でもそれは「風」じゃなくて風圧。空気を切り裂いて移動する速度感。「風」は自分が立ち止まっているときにこそ感じる。それが私にとっての風。

じゃあバイクに乗って感じるもの。なんだろう。「風になりにいく」みたいなものって私にとっては何かな。
ふとそんなことを思うことがあった。
別にそれをずっと考えていたわけではないけど、ある時急に気付いた。


空を見つけたい。


そう。広くて高い空。

空はいつでもどこでも上を見上げればある。
雲ってようが雨だろうがいつも必ず。

その空はどこまでもずっと続いていて、日常の中の空も旅先の空も変わることはない。

そのはずなのに、毎日毎日家と会社の往復をしてるとその空がどんどん狭くなってくる。
つまらない愚痴を言って、あれこれと文句をつけてるうちにただ空を見上げることが少なくなってくる。

まるで鎖につながれた部屋の中の小さく切り取った窓から見た空しか自分にはないように。
そこまで言うと大げさだけど、気づかないうちに自分でそんな風に視界を小さくしてしまう。

ツーリングに出ると空の高さ、広さ、青さに再び気づく。

そう、この空。

私が生きているのはこの広くて高い空の下。
いつもそうなのに、忘れてしまいかけていた空。

自分で自分にかけていた鎖がうそみたいに消え去って、飛ぶことだってできるように感じる時間。

旅に出なくても、日々の変わらぬ生活の中でその空の高さを感じられる人がいることを知ってる。いつか自分もそうなりたいと思う。
それまでには、まだもう少し時間がかかりそう。

だからまた走りにいこう。