雨が降っている。テントをたたく雨音は途絶えることがない。今晩中にあがってくれればいいのだが。

まだ7時。いくらキャンプとは言え寝るには少し早すぎる。テントからそう遠くないところに東屋があったのを思いだし、ランタンを手にテントを出た。

やはり似たようなことを考える人がいる。先客があった。
「やる?」
彼は少し微笑んで酒のビンを私に向かって軽くあげた。
「ありがとう」
もう一度テントに戻りコッヘルをとってきた。
彼とは北海道に渡るフェリーで出会った。それから2日間ほど一緒に走っている。この北海道独特の空気のせいか、地元の友達のように、それ以上に心の許せる友達になっていた。

せっかくのツーリング、気の置けない友と酒を飲んでいるというのに、雨のせいか気が沈む。彼も特になにを話すわけでもない。

「遠くに行って考えたいことがある時ってない?考えすぎてわからなくなった時、日常生活と離れて、そのことだけを考えるために」
こんな夜に聞くことでもないとは思ったがついこぼれる。
雨が降っている。
彼は少し首をかしげた。
「本気で悩んで答えを出すのなら、やっぱりいつもの自分の部屋だよ。いつもと同じ生活をして、いつもの場所でしか見つからないよ。旅へ出るのは気晴らしにはなるかもしれないけど、解決にはならない」

雨の音が弱くなった。

当然のこと。そうかもしれない。でもこの夜、この場所で、君の口から聞いたその言葉はなんてストレートに届くんだろう。

とても楽しいけど、この旅が終わればもう二度と会うこともないのかもしれない。ほんの5分前までそう思ってた君。

「帰ったらまた会おうよ」
彼は少し意外そうに私を見て、その後口元をほころばせた。
「もちろん」

やっかいごとはこんな場所でくよくよ考えることじゃない。明日からほんの数日間、そんなことなど忘れていなければ。それが逃避ならそれでもいい。必ずそこには帰らなければならないのだから。でもここはその場所ではない。

残り少ないこの旅を最高に楽しめますように。

こんな出会いがまたありますように。