冬の露天風呂で思うこと

いくら凍結・積雪しない地方だとは言え、さすがにこの時期、バイクに乗ってツーリングしている人を見掛けることは少なくなった。私にしても遠出をしようという気にはなかなかなれない。片道３時間の温泉。山の中とは言え幹線国道。凍りはしないだろう。

日が昇り少し暖かくなってから出発。きっちり首元も手首も閉めてあるのにやはり微かに風が入り込む。夏なら絶対わからない微妙な空気の流れ。

街から離れると急に寒さが増す。フルフェイスのメットだけど口元まで隠れるネックウォーマーは今日はおいてきた。顎から頬までの皮膚がちくちくと刺されるように痛い。呼吸さえ気をつけないと一瞬でシールドが曇ってしまう。

山の景色は白く霞んでいる。緑の木々もあるのに全体の印象は薄い灰色。冬の景色。冬生まれのせいか、こんな色のない風景も結構好きである。紅葉もすっかり終わり路肩には枯れ葉が溜まって、時々通るトラックに巻き上げられる。カウルに蝶のようにとまる落ち葉。走行中にも関わらず不思議なほど長い間そこにとどまっている。少しスピードを落すとふわりと舞い落ちもう一度風にさらわれていった。

そろそろ寒さが限界になってきた。寒いというよりは痛い。指先は冬用グローブをしているのにもう感覚がない。体も寒くて力みすぎてとてもじゃないけど素早い動作なんてできそうにない。
今時グリップヒーター、電熱グローブ、電熱ソックス、薄手のサーマルなんとかという素材のインナーなど、冬でも快適に走れるものがたくさんでている。そういうものを総動員すればここまで寒さを我慢する必要もないのかもしれないけど、なんとなくそんな気になれない。
走っていて寒い。冬だからこそ。
とは言うもののさすがに危険領域に入ってきた。ようやく目的地。温泉街だけあってそこここから湯気が立ち上っている。スピードを落しただけでだいぶ寒さが和らいだ。体が固い。これでは止まっただけで転びそうだ。

雰囲気のいい温泉旅館を見つけて駐車場に入る。車が数台。なぜバイクで来てるのかという目で見られる。そりゃそうだよね。確かにひどい顔だ。が、そんなことは気にしていられない。温泉である。震える手で料金を払い脱衣場へ。脱いだものをたたみもせずに脱衣かごに投込むと浴場にかけこんだ。かけ湯をしてお湯に浸かる。

凍り付いたような体が一気に溶けていく。この快感。このためだけにやせ我慢して走ってきたようなものかもしれない。指先は慣れるまでひどく熱い。痛いほどだけどじっとして浸かっている。じわじわと血の通う感覚。

ようやく人心地ついてゆっくり体を伸ばす。大きく息を吐く。
それほど大きくない露天風呂だけど変に作りすぎていなくていい。寒いので湯気が一帯を覆い、２，３人入っている人たちの顔もぼんやりとしか見分けられない。夢の中の景色みたいだ。

バイクに乗っていると時々なんでこんなことしてるんだろうっていうくらい辛い目にあうことがある。とんでもなく寒い時、何時間も雨の中を走っている時、夜の人気のない道で迷ってしまった時。
でもその何倍もの、他では味わえないような感動がある。だからやめられないんだよね。でもライダーってちょっとマゾヒスティックでナルシストな人が多い。そう思うのは私だけかな。

そんなことを考えながら、誰もいないのをいいことに頭を岩風呂の縁に乗せて大の字になって浮いてみた。