そのさくら

なんて勝手な人だろう。

日本海と太平洋を桜並木で結ぶ？それはいい。けど家族も省みず、自分の体さえ放り出してなぜそこまでしなくてはいけないのか。
あなたを心配する家族の想いはあなたには届かないのか。

彼はそれでも桜を植えつづけそして志なかばに帰らぬ人となる。

実在の人物。その桜の移植物語にこころを打たれ、とんでもない夢を抱いたごく普通の男性。

その映画を見ていた時の感想は「勝手な人」だったはずなのに、ずっと忘れられずに残っている。その感動の意味が自分でもわからないまま。

以来私は何度かその桜を見にいった。花の咲いていない時期ばかり。初めて見たときは少しがっかりした。あまりにも私の中で膨らんでいたイメージと違い、その桜の木は国道沿いのちょっとした駐車場のわきに立っていた。脇を車がびゅんびゅん走り抜け、もちろん老木で立派な木ではあるが、薄墨桜ほどの貫禄はない。

それでも家に帰りしばらくするとまたその桜が気になり始める。そしてまたバイクを走らせる。そんなことの繰り返し。私にとって花が咲いている、いないはあまり関係なかった。ただその桜の木に逢いに行くこと。それが目的。

今年、初めて桜の咲いたその木を見た。いつもの通り、その美しさとかそんなものを期待していたわけではなかった。でも。

やはり桜は花が咲くから桜なんだ。

そんな当たり前のことをつくづく思った。彼の心を動かしたのもきっとこの桜。１年のうちたった１週間くらいしか咲かない、この花。無骨な幹がふわりとまとった薄絹のような桜色の衣。

また、この先何度も私はここへ来るだろう。

いつか探している答えを見つけるまで。